Vol.4 「HPVワクチン」ってどんなワクチン?①

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ヒトパピローマウイルス(HPV)は200以上の種類がある

「子宮頸がんはワクチンで予防できるがん」と聞いても、HPVワクチンのことがよくわからないからと、接種を迷っている人がいるかもしれません。まずは、HPVワクチンがどんなワクチンなのか、学んでいきましょう。

Vol.1〜3で説明した通り、子宮頸がんの原因はヒトパピローマウイルス=HPVというウイルスへの感染です。ただしHPVには200以上もの種類がありますが、子宮頸がんの原因と考えられるのは、HPV16、18、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、66、68などごく一部。

そして子宮頸がんの約65%は、高リスク型のHPV16型と18型が原因です。実際、子宮頸がんを患った日本人女性のうち20代の90%、30代の75.9%がこの型に感染していることが確認されています。この2つの型は、ほかの型による感染に比べて進行が早いのが特徴です。

子宮頸がんにおけるHPV16型、18型の占める割合
Onuki M et al. Cancer Sci. 2009; 100(7):1312-1316.より作図

ただし、これらの型に感染したからといって必ずがんになるわけではありません。HPVに感染しても、90%以上の場合、2年以内にウイルスは自然に検出されなくなるといわれています。

はじめての性交渉の前にHPVワクチンを接種するのが理想的

では子宮頸がんにならないために、HPVの感染から自分をどう守ったらいいのでしょうか?

異性との性経験がある女性の80%以上が一生に一度はHPVに感染するといわれているように、感染の原因は性交渉です。つまり初めての性交渉を経験する前に感染を防ぐことができれば、子宮頸がんになるリスクは大幅に抑えられるということ。

そのために大きな役割を担っているのが“HPVワクチン”です。

実際、日本人女性を対象とした研究では、初めての性交渉の前にHPVワクチンを受けた人の約94%に、高リスク型のHPV16型・18型への感染予防の効果があったことが報告されています。

HPV-16、18型に対する子宮頸がんワクチンの効果
出典:Niigata Study. Kudo R. Yamaguchi M. et al. J Infect Dis. 2019より作図

また接種対象者の約7割がHPVワクチンを接種していた世代は、20歳になった際の子宮頸がん検診で見つかる細胞の異常の割合が、接種がまだ行われていなかった世代から予測される率より低くなっていて、さらに接種が控えられた世代ではこれが再度増えてしまっているという結果がでています。

20歳子宮頸がん検診における細胞診異常率の経年変化
Yagi A et al. Lancet Regional Health – Western Pacific, 2021;18:100327

そのほかにもスウェーデンやデンマークの研究では、16歳以下のHPVワクチン接種によって、子宮頸がんの患者数が大幅に減少したという結果もあります。スウェーデンでは88%、デンマークでは86%も非接種者に比べて減少したことが報告されています。

定期接種世代での浸潤子宮頸がん予防効果
出典:Lei J. et al. New England Journal of Medicine. Kjaer SK. et al. J Nati Cancer Inst 2021. Falcaro M. et al. Lancet. 2021 より作成

このように、HPVワクチンのがんの予防効果は、国内外で証明されているのです。

性交渉を経験してから接種してもムダではない!

先ほど、「初めての性交渉を経験する前に感染を防ぐことができれば、子宮頸がんにかかるリスクは大幅に抑えられる」という話をしました。ならば、性交渉を経験してからHPVワクチンを接種しても遅いのでしょうか?

残念ながら、HPVに感染する前でなければワクチンの予防効果はありません。ただし、性交渉を経験したあとにHPVワクチンを接種してもムダというわけではありません。

HPVには複数の種類があります。性交渉の経験があっても、ワクチンで守れるHPVにまだ感染していなければ、予防の効果は期待できます。

とはいえ、理想のタイミングは性交渉を経験する前。HPVワクチンの定期接種の対象年齢は、小学校6年生〜高校1年生相当の女の子です。子宮頸がんを効果的に予防するために、この時期にHPVワクチンを接種することを考えることは、未来の自分にとってもとても大切なことなのです。

監修:大阪大学大学院医学系研究科 産科学婦人科講師上田豊先生 

「子宮頸がんで苦しむ日本の女性を少しでも減らしたい」という強い思いから、日本の若い女性でのHPV感染状況やHPVワクチンがどのくらいの期間感染を予防できるのか等、日本の子宮頸がん予防に役立つ研究を日々行っている。同時に、産婦人科医として子宮頸がんの診療にあたりながら、子宮頸がんの正しい情報と予防策の普及にも努めている。

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