vol.2 乳がんを正しく知ることが早期発見の第一歩

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皆さんは「がん」にどんなイメージを持っていますか? また大人の体の中で1日にどれくらいの「がん細胞」ができているか知っていますか? 

正解は1,000個以上です。

驚いた人もいるかもしれませんが、健康な人の体の中でも日々がん細胞は発生しています。ただがん細胞は多くの場合、初期段階に免疫によって退治されています。しかしこの免疫機能がうまく働かなくなると、がん細胞が増殖して「がん」という病気になってしまいます。

そして今、日本人の2人1人はがんになっていて、男性の4人に1人、女性の6人に1人はがんが原因で亡くなっています※1。なかでも日本人女性がかかる割合が最も多いのが「乳がん」です。新たに乳がんと診断される人は年々増えており、2019年には1年間で約9万7000人※2。日本人女性の9人に1人が乳がんになっています。

「そんなにも多くの人がんになっているんだ……」と不安に思った人もいるかもしれませんが、がんは早期発見することで治すことができます。ちなみに乳がんを早期発見して治療した場合、95%※3を超える人が治るといわれています。

さらに乳がんは、自分でもチェックできるがんです。35歳より若い人で乳がんになる人はとても少ないので心配しすぎないで欲しいのですが、今から乳がんの正しい知識を持っておくこと、日頃から自分の乳房に関心を持つことが、将来的に早期発見の第一歩につながります。まずは乳がんについて知ることから始めましょう。

※1 厚生労働省「平成27年 人口動態統計」
※2※3 がん情報サービスホームページhttps://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/2019/cancer_statistics_2019.pd

乳がんってどんな病気?

乳がんの説明

乳がんとは乳腺にできた「がん」のことをいいます。生物の授業で習ったことがあると思いますが、体をつくっている細胞は日々分裂して増えています。がん細胞も同じで、1個のがん細胞が生まれると、1個が2個、2個が4個、4個が8個……とどんどん増えていきます。

乳腺にできたがん細胞は一般的に大きくなるスピードが他のがんに比べてゆっくりで、10〜20年かけて約10億個まで増え、1cm程度の大きさになります。ただその後直径1cm程度の乳がんが2cm程度になるまでには、わずか1〜2年。2cmまでの大きさでどこにも転移をしていない状態を早期がんと呼んでいます。

乳がんは30代後半から増えていき、40〜60歳代でピーク

グラフからもわかるように、乳がんが急激に増えるのは30代後半からです。その後40〜60代でピークとなりますが、70歳以降も大きくは減りません。また、乳がんで亡くなる人の数は年々増えており、2014年には残念ながら1万4000人以上の人が亡くなられました。

年齢階級別がん罹患率推移(乳がん女性)
公益財団法人がん研究進行財団がんの統計’23 p55 https://www.fpcr.or.jp/data_files/view/232/mode:inline

一方で、乳がんになって10年後に生きていらっしゃる人の割合は約80%と、乳がんは女性では最も多いがんですが、早期に発見すれば治癒が期待できる(治りやすい)がんでもあるといえます。

部位別10年相対生存率

乳がんは自分で気がつくことができるがん

乳がんはマンモグラフィによる検査方法が確立されており、早期に発見できるがんです。さらに「乳がんは自分でもチェックできるがん」とお話しした通り、他の内臓のがんと異なり、体の表面近くにできるため、自分で触って発見することができます。自覚症状はいろいろありますが、なかでも“しこり”ができて気がつく人が一番多いです。乳がんは硬い塊をつくることが多く、小石のような硬いしこりができます。また、わきの下のリンパに硬いもの(しこり)ができて気がつく人も。この他にも

・乳房の皮膚にひきつれているところやくぼみがある
・乳頭の湿疹やただれのような皮膚の異常が治らない
・乳頭から赤や茶色の分泌物が出る
・生理周期に関係なく、乳房の違和感や痛みが続く

といった症状で気がつく人もいます。

実際に乳房をつかんでみると「なんか硬いものがある……」と思った人もいるかもしれません。でも乳房をつかんで触れる硬く感じるものは、実は正常な乳腺です。自己チェックで大切なのは、つまんでチェックするのではなく、指をそろえて平たくして乳房をつぶすように押さえて滑らすようにチェックすること。詳しいやり方は次回紹介しますので、ぜひやってみてください。   

このように女性ホルモンの影響で、生理前に乳房が痛くなったり、張ったりすることは女性によくみられる症状です。これらの症状に不安に感じている人がいるかもしれませんが、生理後に気にならなくなる一時的なものであれば心配はいりません。まずはどんな時に変化を感じるのか、チェックしてみてください。

乳がんの治療法は大きく3つ

ではもし乳がんになったら、どんな治療をするのでしょうか。

治療法には手術、放射線治療、お薬の治療(薬物治療)があり、がん細胞の性格と病気の進行の程度によって、治すために必要な治療を選択します。なかでも手術は、乳がん治療に欠かせない治療の一つです。手術の方法には大きく乳房を全摘(乳房全部を切除)する方法と、がんの部分だけを切除する温存手術があり、全摘した場合にも乳房の膨らみをいろいろな方法でつくり変える乳房再建手術も選択できます。また、お薬の治療(薬物療法)も再発を防ぐために大切な治療です。

乳がん治療(最長の例)

恵美先生教えて! 気になる 乳がんのことQ&A

Q1.乳房の大小と乳がんの発症率は関係がありますか?

A.大きさとは関係ありませんが、乳腺の量とは関連しているようです。乳がんは乳腺からできるので、乳腺の量が多い人のほうが少ない人よりも乳がんが起こりやすいとされています。ただ、同じEカップの乳房の人でも、乳腺濃度は10%くらいととても少ない人もいれば、Aカップでも90%くらいにぎっしり乳腺という人もいます。脂肪との割合も生まれつきでさまざまですので、乳房の大きさだけでは乳がんのかかりやすさは判断できません。

Q2.男性は乳がんにならないのでしょうか?

A.男性にも乳頭と乳輪の下を中心に少ないですが乳腺があります。女性ホルモンが少ないため発達していないだけなのです。ですから、乳腺がある限りは男性も乳がんにかかることはあります。ただ割合は少なく、乳がん全体の約1%です。乳頭や乳輪の部位が膨隆(ぼうりゅう)※4したり、痛みがある、しこりがあるなどの症状で乳腺外科外来に受診される方がいますが、ほとんどは乳腺が何らかの原因で腫れた『女性化乳房症』という良性の状態で、がんはまれです。

※4 膨隆(…膨らんで盛り上がっているさま

Q3.10代(高校生)で乳がんになる人はどのくらいいますか?

A.最新のデータでは、15~19歳で乳がんを発症した人は2015年で1人、2014年で2人となっています。その年の同年代の方の人口が293万人、それに対しての割合は0.000068%ですね。もちろん、自己チェックをしていただいてもよいですが、数字上は「ほぼゼロ」ですので、気にしなくてもよいといえると思います。

Q4.乳がんは治るのにどれくらいかかりますか? 乳がんが治るとはどういうことですか?

A.乳がんが治るということは、最初に乳腺にできた“がん”が治療によってみられなくなり、その後何年たっても体のどこにも転移や再発が出てこない状態のことです。一般的に手術から10年経過して再発や転移がなければ“完治(かんち)”とされます。ただし、その後も定期的に検診を継続する必要はあります。ちなみに、乳がん以外の多くのがんは、だいたい5年を目安に病気の完治を判断されます。

Q5.乳がんを治療せず放置するとどうなりますか?

A. 乳房にできた腫瘍は徐々に大きくなり、やがて他の臓器に転移するだけでなく、乳房の皮膚を破って出血や感染を起こします。また、胸の筋肉や肋骨、わきの血管や神経などに浸潤(しんじゅん)※5して痛みや機能障害を起こします。残念ながら、病気は無視をしても“ないこと”にはできません。病気と向き合う勇気を持ってもらうためにも、病気のことをよく知っておいてほしいと思います。

※5 浸潤…がんが周りに広がっていくこと

Q6.乳がんで乳房をとったら授乳はできないのですか?

A.乳がんを切除するときに乳管を切断したり、残った乳腺に放射線をあてる治療を行うことで、形が残っていても授乳は困難になる場合が多いのが現状です。

乳がんは早期発見が大切

乳がんは早期発見して治療すれば95%以上の人が治るがんです。

だからこそ何より大切なのが早く発見して治療すること。乳がん検診のない40歳未満の若い年代では、日頃から「自分の乳房に関心を持つこと」がとても大切です。顔や体形がそれぞれ違うように、乳房の特徴も一人ひとり違います。自分の乳房がどんな様子なのか、まずは知っておくことから始めましょう。次回は乳がんを早期発見するために今からできることを紹介していきます。

参考:「知ってほしい乳房と乳がんお話」 HAL1284AKA.pdf (eisai.jp)

乳房と乳がんのお話表紙

監修:独立行政法人広島市立病院機構 広島市立北部医療センター安佐市民病院 乳腺外科 主任部長
NPO法人ひろしまピンクリボンプロジェクト 認定NPO法人乳房健康研究会理事
 恵美純子えみあきこ(先生

3人の子育てをしながら熱心に診療を行なっている。同時に中高生向けのがん教育にも力を入れており、各地の高校を訪れ、若い世代に向けて【乳がんを知る講座】を開き「乳房を正しく知ることの大切さ」を日々啓発している。

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