vol.3 今から早期発見のためにできることはある?

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がんなんて遠い世界の話だし、自分はまだ大丈夫だし……と思っている皆さん、がんになる原因がなんだか知っていますか? 

1、生活習慣
2、細菌感染・ウイルス感染
3、遺伝

正解は全部です。がんになる原因は一つではなく、いろいろな原因が重なってできます。それにがん細胞は健康な人でも若い人でも毎日発生しており、誰でもがんになる可能性はあるのです。

とはいえ、データ上では皆さん中高生が今すぐがんになる確率はごくわずか。でも未来の自分のためにがんの発症リスクになることを少しでも頭の片隅に入れておくとか、自分の体の変化を知るとか、そういったことが未来の自分にもつながっていくはずです。最終回では、今からできることをまとめました。ぜひ参考にしてみてくださいね。

乳がんは予防できるの?

がんの発症に関係する要因には、食生活や飲酒、喫煙、細菌やウイルス感染などの「環境要因」と、親から受け継いだ生まれつきの「遺伝要因」があります。

まず環境要因のなかでがんの発症にとくに関連しているといわれている生活習慣が、「喫煙」「飲酒」「食生活」「運動不足」「肥満」です。これらを改善することでがんになるリスクは男性で43%、女性で37%※1減らせます。この5つの生活習慣ががん予防にとって大切になってきます。

5つのポイント
1、タバコを吸わない
タバコは肺がんをはじめ、食道がん、膵臓(すいぞう)がん、胃がん、大腸がん、肝細胞がん子宮頸がんなど、多くのがんに関連します。タバコを吸う人は吸わない人に比べて、何らかのがんになるリスクが約1.5倍高まることがわかっています。

2、お酒を飲みすぎない
肝細胞がん、食道がん、大腸がんと強い関連があり、女性では男性ほどはっきりしないものの、乳がんのリスクが高くなることが示されています。

3、食生活に気をつける
これまでの研究から、「塩分や塩辛い食品のとりすぎ」「野菜や果物をとらない」「熱すぎる飲み物や食べ物をとること」が、がんの原因になることがわかっています。

4、適度な運動の習慣を身につける
仕事や運動などで身体活動量が高い人ほど、がん全体の発生リスクが低くなるという報告があります。

5、ちょうどいい体重を維持する
男女とも、がんを含むすべての原因による死亡リスクは、太りすぎでも痩せすぎでも高くなることが分かっています。

また環境要因の他にも、遺伝要因ががんの発生に強く関わっている場合があります。これを「遺伝性がん」といい、乳がんの場合全体の5〜10%※2にあたります。

遺伝性の乳がんで最も多い原因がBRCA1(びーあーるしーえーわん)遺伝子またはBRCA2(びーあーるしーえーつー)遺伝子に変異がある「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」です。本来この2つの遺伝子は細胞に含まれる遺伝子が傷ついたときに修復する働きがあり、この2つの遺伝子に生まれつき変異があり、さらに本来の修復機能が失われると、乳がんや卵巣がんにかかりやすいことがわかっています。遺伝性乳がん卵巣がん症候群の人が一生のうちに乳がんになる確率は約80%、卵巣がんになる確率は40%といわれ、親から子へ遺伝する確率は50%です。

※1 国立がん研究センターがん情報サービス https://ganjoho.jp/public/index.html
※2 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版 https://jbcs.xsrv.jp/guideline/p2023/gindex/100-2/q65/#a1

乳がんの発症リスクには女性ホルモンも関わっている

がんのリスクと同じように喫煙や飲み過ぎ、肥満のほか、糖尿病も乳がんのリスクをあげることがわかっています。また、乳腺の細胞に作用する女性ホルモンも乳がんの発症に関わっています。とくに女性ホルモンのエストロゲンが高い濃度で長時間作用すると、発症リスクが高くなる場合があります。例えば、出産・授乳経験がないこと、一人目の出産年齢が高いこと、生理が早くはじまり、閉経が遅いことがあげられます。

日本乳癌学会編「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2019年版」2019年第6版 p29,30 金原出版より恵美純子先生が作成

このように乳がんのリスクに関係する要因はいろいろありますが、リスクだけですべてが判断できるわけではありません。出産や授乳経験がある人が必ず乳がんにならないということではありませんし、出産や授乳経験がないから必ず乳がんになるというわけでもありません。

乳がんを早く発見し、亡くなることを減らすためには?

たとえ乳がんになってしまっても、乳がんは早期に発見すれば95%治るがんです。乳がんを早期発見するために重要なことがあります。皆さんは「ブレスト・アウェアネス」というワードを聞いたことがありますか? 

「ブレスト・アウェアネス」とは、“自分の乳房に関心を持ち、意識して生活すること”。乳がんは早期発見して治療をすれば95%※3以上が治るといわれており、早期発見にはこれがとても重要になります。では具体的に何をすればいいのかお伝えしますね。

日頃から自分の乳房を見て、触って状態を知る
皆さんは自分の乳房に関心を持っていますか? 入浴やシャワーの時、着替えの時、ちょっとした機会で自分の乳房を見て、触ってみましょう。これが第一歩です。

気をつけなければいけない乳房の変化を知る
Vol.2で解説した乳がんの症状を知っておきましょう。しこりや引き連れ、乳頭からの赤や茶色の分泌物など、乳がんのサインを知っておくことが大切です。

変化に気がついたらすぐに医師に相談する
大丈夫だろうと安易に自己判断をしないで、しこりやひきつれなどの変化や持続する乳房の違和感や痛みがある場合は、迷わず病院やクリニックを受診しましょう。

40歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける
乳がん検診の目的は、乳がんで亡くなる女性を減らすことです。40歳以上の女性は、2年に1回、定期的に検診を受けましょう。異常があった時は必ず精密検査を。

※3 国立がん研究センターがん情報サービス https://ganjoho.jp/data/reg_stat/statistics/brochure/2019/cancer_statistics_2019.pd

20歳になったら月に一度の自己チェックを!

中高生の皆さんは、今はまだ“自分の乳房に少し関心を持つ”くらいでいいかなと思いますが、数年後の20歳になったら月に1度の自己チェックを習慣にしましょう。

自己チェックを行うタイミングは、生理前は痛みを感じたり硬かったりする人もいるので、生理が終わって1週間の間がおすすめです。乳房をつまむのではなく、触る方の手を上げて指をそろえて乳房にあて、指の腹を使って奥の肋骨を感じるくらいの強さで乳房全体をなぞるように滑らせながら触りましょう。外から内へ滑らせたり、中心に向かって円を描くように触ります。

乳がんのしこりは石やビー玉のように硬く、押してもへこみません。普段から乳房を触っていると、「こんなもの前にはなかったのに……」と、ちょっとした変化でも自分が一番早く気がつくことができます。

身近な女性の大人に「乳がん検診」について聞いてみよう

もうひとつ大切なのが、乳がん検診です。乳がん検診にはマンモグラフィ検査と超音波(エコー)検査があります。

まずはイラストを見てください。

マンモグラフィ検査をしている女性

これがマンモグラフィ検査です。イラストなのでかわいらしく見えますが、やっていることはすごいです。乳房を板のようなもので挟んで、平らにした状態で上からX線が出て乳房のレントゲン写真が撮れるようになっています。この検査ではこのような写真が撮れます。

黒く透けて見える部分は脂肪が多い部分で、白い線のように写っているのが乳腺です。乳がんは乳腺にできるので、がんも白く写ります。

では皆さん、この写真のどこにがんが写っているかわかりますか? 正解は赤い丸の部分です。マンモグラフィ検査では、がんはこのように映ります。

マンモグラフィ検査は効果が検証されており、市区町村が行う検診(対策型検診)で2年に1度40歳以上の女性に推奨されている乳がん検診(対策型検診※4)で行われている検査です。

では、どうして40歳以上なのでしょうか。次の写真を見てください。

実は同じ乳房でも写り方はさまざまで、右端は乳腺が多く全体が真っ白に写っています。これは若い人や授乳経験がない人に多く見られる状態です。そして左に行くほど脂肪の割合が多くなり、黒い部分が多くなります。加齢や授乳をしっかりして乳腺が萎縮してしまうとだんだん左のように変化していきます。ただ、乳腺の量は生まれつき決まっているので個人差もあります。

そしてしこりのモデルとして白い影をすべての写真に重ねてみると、左に行くほどわかりやすいと思いませんか? つまり、ある程度年を重ねた乳腺の量が少なくなった40歳以上の女性の方がマンモグラフィ検査ではがんを発見しやすく、とくに威力を発揮するのです。

では次に超音波(エコー)検査はどうなのでしょうか?

エコー検査をしている女性


超音波検査は横になった状態で特殊なゼリーをつけて乳房に器械をあてながら検査します。音波が奥まで進むことで、このように乳房内を画像化することができます。

白い部分が乳腺で、がんなどのしこり(腫瘤(しゅりゅう))は黒く写ります。つまり乳腺が多くて密度の高い人は見つけやすく、若い人にも向いている検査といえます。また被ばくの心配がなく、妊娠中やその可能性がある場合でも受けられ、痛くないのも特徴です。

乳がん検診でどんな検査をしたのか、お母さんやおばさんなど身近な大人の女性に聞いてみるのもいいかもしれません。

※4 市区町村が健康増進法に基づく健康増進事業で行っている住民検診

恵美先生教えて! 知っておきたい乳がんのことQ&A

Q1.遺伝性乳がんの遺伝は男性、女性で差がでますか?

A.BRCAなどの遺伝性乳がんが遺伝する確率は男女関係なく等しく50%です。ですが、同じ遺伝を持っていても、乳がんの発症率は女性のほうが多くなります。家系に乳がんの人がいても遺伝する乳がんである確率は低いのですが、男性乳がんの人がいる場合は、“遺伝性の乳がん”である可能性が少し高くなります。

Q2.授乳しなくても加齢によって乳腺は減るのはなぜですか?

A.女性ホルモンが年齢とともに減っていくことが関係しているため、授乳をしなくても乳腺は萎縮していきます。また女性ホルモンは乳腺や子宮内膜の変化だけでなく、骨密度や血管の硬さ、肌や髪のハリや髪にも関係しています。

Q3. 自己チェックは生理の後1週間しかできないのですか?

A.もちろん、毎日していただいてもかまいません! ただ、排卵の時期や生理が始まる前には乳房の痛みや張りが強く、硬い部分ができることもあるので、比較的そのような症状が少ない生理が終わってから1週間くらいの間がおすすめです。ぜひ、自分の乳房のようすに関心を持ってください。

Q4. どうして検診は2年に1回じゃないとダメなのですか?

A. 一般的な乳がんの成長スピードから、2年ごとにきちんとした検診を受けていると2㎝よりも小さいがんで見つかる可能性が高くなるからです。1cmの大きさの乳がんはだいたい1~2年で倍の大きさに成長します。今回の検診で判別できないくらいのがんが乳房に潜んでいたとして、2年以内に受ければほとんどの場合はまだ早期がんだと予測されます。ただし、がんの性格によっては一般的なスピードよりも成長が早いものがあります。そのようながんほど塊をつくるものが多く、だからこそ、日頃から各自が自分の乳房に関心をもって定期的にチェックすることが大切なのです! 『2年ごと』の2年の間には『自分でもチェックしている』が大前提です。

Q5. 自己チェックによる見落としはないのですか?

A. ちろん、あると思います。やわらかく小さい乳房のほうが異常を見つけやすいですし、硬くて大きい乳房の方は触るだけでは見つけられない可能性があります。ただ、日ごろから触っていれば「ん?何かいつもと違う・・・?」と感じて早めに専門のクリニックなどを受診していただくきっかけになると思います。

皆さん、自分の乳房に関心を持っていただけたでしょうか? いろいろなお話をさせていただきましたが、ぜひこれだけは心にとめておいてください。

●生理前には乳房に痛みや張りなどの症状が出ます
●20〜30代では月1回の正しい自己チェックが大事
●生理が終わった1週間の間に自己チェックをしましょう
●40歳になったら2年に1回乳がん検診を受けましょう
●家族に乳がん検診に行っているか聞いてみましょう

皆さんのお母さんやおばあさん、叔母さんなどは乳がんに気をつけてほしい年齢だと思います。もし「忙しくて乳がん検診に行けない」といっていたら、お父さんやおじいさん、叔父さんにも「検診に行かせてあげて!」と伝えてください。

そして皆さんも自分の乳房に関心を持ち、将来きちんと検診を受けていってくださることを心から願っています。

参考:「知ってほしい乳房と乳がんお話」 HAL1284AKA.pdf (eisai.jp)

乳房と乳がんのお話表紙

監修:独立行政法人広島市立病院機構 広島市立北部医療センター安佐市民病院 乳腺外科 主任部長
NPO法人ひろしまピンクリボンプロジェクト 認定NPO法人乳房健康研究会理事
 恵美純子えみあきこ(先生

3人の子育てをしながら熱心に診療を行なっている。同時に中高生向けのがん教育にも力を入れており、各地の高校を訪れ、若い世代に向けて【乳がんを知る講座】を開き「乳房を正しく知ることの大切さ」を日々啓発している。

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